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いつか書く手紙

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2013年 08月 07日

蝉のセミ次郎のこと

昨晩寝るまえに
蝉のセミ次郎のモノマネをしたら
夫が笑っていた。

見るに値する芸を繰り出せたようでうれしい。


=====
セミ次郎は明かりが大好きで
夜のコンビニの
輝くガラス戸をめがけて突進するが
からだの軽さが軽すぎて
扉が開かない。

せつない。

セミ次郎もほんとうは
ファミリーマートの
入店のメロディが聴きたい。

俺のために歌ってくれ、自動ドア。

なんどもガラス戸にぶつかって
それでもあきらめきれなくて
ガラスのふもと、
足拭きマットのはじでうずくまっていた
真夏の夜のセミ次郎。

俺が生きていられるのは
あと三週間か十日か
それともよくいわれるように一週間しかないのか。

せつながっていたそのときに
サラリーマンがなにげなく
ドアをくぐって
「いまなら」「いまだ」とセミ次郎は思う。

飛ぶ。

ぶん。

自動ドアがしまるまえに
セミ次郎の高度は1メートル70センチに達し
見事に入店を果たした。

じじじじ。

あの入店のメロディは流れない。
ファミリーマートに歓迎されるには
セミ次郎のからだはちいさすぎて軽すぎる。

セミ次郎はそれでも満足だった。
高く高く飛びながら
蛍光灯につぎつぎと挨拶をする。

これがレトルト食品ですか。
これがスナック菓子ですか。
これがハーゲンダッツですか。いいですね。

これが週刊誌ですか。
これが競馬新聞ですか。なんでもありますね。

セミ次郎は店内を自由自在
縦横無尽に飛び回る。

ああ、これがハイライトですか。
これが缶チューハイですか。
これがブルガリアヨーグルトですか。
いいですね。

店長がバイト君に命令をする。
高校生の彼は店でいちばん背が高い。
レジ裏に常備してある虫取り網を手に
ふたりはしずかにセミ次郎を追いかける。

セミ次郎はいっそう
悲壮なほどの声で鳴く。

俺は明るいのがすきです。
俺はこの場所がすきです。
蛍光灯の真下を飛んでいたい。
いろんな品物の上を飛んでいたい。

じじじじ。

じじじじじじじ。

OLが逃げまどう。
サラリーマンが首をひねってよける。

セミ次郎は網の中に。
バイト君が外へ出て
茂みにそっと放す。

せめてもっと話したかった。
おいおまえ、おれのこと捕まえて楽しいのか。
じじじじ。

バイト君の戻っていったコンビニを眺めて
セミ次郎は泣く、
じじじじ。



=====
というのを5分ほどの踊りに込めて
踊ったらすごく汗が出たし、夫も笑ってくれるし、
ひじょうによかった。エンターテイメントです。

by writetoyou | 2013-08-07 20:39 | 動物


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